院長コラム Vol.1
私はかつて30〜40歳代の頃、北海道内のいくつかの基幹病院で産婦人科医として勤務し、一次・二次医療を担当していました。手術や分娩、救急診療を含め、日々臨床の第一線で診療にあたっていました。
その後、当院で産婦人科診療に加えて漢方外来を開設し、多くの患者さんに受診していただけるようになりました。現在では私(院長)の外来では漢方治療が大きな割合を占めていますが、もちろん産科・婦人科の診療もこれまでどおり行っています。
診療を続ける中で、私は時々「漢方治療とは何だろう」と考えることがあります。産婦人科は、薬による治療と手術・処置の両方を行う診療科です。病気に対して薬で治療するのか、処置や手術が必要なのかを常に判断しながら診療しています。
一方、現在の医療では、それぞれの専門分野が高度に発達し、必要な検査や手術、薬物療法は専門医が適切に担当しています。例えるなら、自動車の故障を修理するように、悪くなった部分を正確に診断し、治療する医療です。
では、そのような時代に漢方医学はどのような役割を担うのでしょうか。
近年の医学では、人間の身体は精密にできている一方で、全体の中でさまざまな働きが一定の幅の範囲でこまかく揺らぎながら保たれていることが分かってきました。この調節がうまくいかなくなると、やがて大きな病気へとつながることがあります。たとえば「何となく調子が悪い」「疲れが取れない」「冷えやほてりが気になる」。こんな症状があっても、検査では異常が見つからないことは少なくありません。漢方診療では、このような状態を別の角度から捉え、身体の働き全体のバランスを整えることで改善を目指します。
東洋医学には「未病を治す」という言葉があります。病気になってから治療するだけでなく、病気へ進む前の不調を整えるという考え方です。もちろん、手術や専門的な治療が必要な病気は、西洋医学による適切な診断と治療が最優先です。産婦人科的な診察や検査で多くのことが分かります。そのうえで、漢方医学が身体全体の調子を整え、患者さんが本来持っている回復力を支えることができれば、それは大きな力になるでしょう。
もともと西洋医学と漢方医学は対立するものではなく、お互いの長所を生かし合う医療であると私は思っています。専門医療と漢方医療を組み合わせることで、より幅広く患者さんの健康を支えることができる。それが、「これからの漢方医療」ではないでしょうか。